妊娠後期に見られる症状やお悩みについて解説

産科診療妊娠後期の症状や疾患

妊娠線

妊娠20週以降で多く認められます。体重の急激な増加によりお腹・おしり・太もも・おっぱいなどの皮膚が引き伸ばされ、皮下組織が断裂して発生します。最初は皮膚がかゆくなり、赤いひび割れのような線状のキズができやがて白くなります。妊娠中の栄養管理を心がけ、急激に体重が増えないようにしながら、保湿クリームやオイルでこまめに皮膚を伸展・マッサージするのが予防の一助となります。

妊娠高血圧症候群

母親の血圧コントロール不良を起点として様々な症状をおこすものを妊娠高血圧症候群といいます。全妊婦の約8%にみられ、初産婦・高齢妊娠・肥満・前回妊娠時に妊娠高血圧症候群の発症などがリスク因子とされています。

妊娠高血圧

妊娠20週以降で、初めて高血圧(140/90mmHg)を発症し出産後3か月以内に正常化するもの。軽度なら急激な体重増加で体の負担を大きくしたり塩分を控えるなどの管理で様子を見ますが重症(160/110mmHg)なら妊娠の強制終了などの措置が必要となります。

妊娠高血圧腎症

妊娠20週以降で、初めて高血圧(140/90mmHg)を発症し、かつ尿タンパクを認め出産後3か月以内に正常化するもの。

子癇(しかん)

主に妊娠中の高血圧が原因となって痙攣(けいれん)をきたす病気で、かつてはお腹の子が癇癪(かんしゃく)を起こして母親が痙攣すると考えられたので「子癇」と呼ばれています。妊娠中だけでなく分娩中やお産後も起きる場合があるので注意が必要です。痙攣の前に頭痛・めまい・フラッシュを浴びるような眩しさなどを感じる時がありますので気になるときは早めにスタッフへお声かけください。てんかんや他の病気による2次的な痙攣との区別が重要なので、持病があるかたは事前に必ずお知らせください。

羊水過少・過多

羊水(ようすい:胎児の周りにある水)は胎盤から産生されたり胎児の排尿により子宮内に貯まります。胎児が羊水を飲みこみ消化してへその緒から胎盤を経由し母体に送り量を調節しています。

羊水過少

妊娠中に羊水が少なくなる状態。原因は破水・妊娠高血圧症候群・胎児発育不全・胎児の腎臓尿路の病気・慢性早剥羊水過少症候群・過期妊娠・解熱鎮痛剤使用など。

羊水過多

妊娠中に羊水が多くなる状態。胎児が羊水を飲みこみにくくなる場合として胎児の食道閉鎖・横隔膜ヘルニア・筋無力症・胎児水腫、胎児の尿産生過剰の場合として胎児貧血・パルボウィルスB19感染など。

胎児発育不全

妊娠初期に分娩予定日を決定する一番の目的は、標準的な発育に比べて差がどれだけ広がるかを確認するためとも言えます。健診時の胎児推定体重が一時的に標準から差があっても、次回以降で差が縮まる場合も多いので一喜一憂せず長い目で評価ことが必要です。胎児発育不全の原因は大きく2種類あります。

胎児へ十分な栄養が供給されない状態

少ない栄養が脳や心臓へ優先的に供給されるため、平均的な頭のサイズに比べ体幹や四肢の発育が遅延する傾向にあります。

  • 母親のタバコ・低栄養・妊娠高血圧症候群・胎盤機能不全など。

発育プログラムの不良による状態

  • 妊娠初期の感染症・薬剤・放射線の影響、染色体異常、その他先天的疾患など。

B群溶連菌感染症(GBS)

妊婦の約30%が腟内~直腸で検出されます。赤ちゃんが産道感染するのがこのうちの約60%で、さらにその1~2%の赤ちゃんが重症化するとされています。妊娠後期で検査し、GBSが検出された妊婦に対しては産道感染の予防で、分娩時に抗生物質の投与が有効とされています。

前期破水(PROM)

陣痛が起きる前に卵膜が破けることを前期破水といいます。妊娠37週以降のPROMは約80%で24時間以内に陣痛が発来しお産になるのでそのまま待機することが多いですが、赤ちゃんの感染を予防する目的で早期に分娩誘発を行う場合もあります。妊娠37週未満でPROMが起きたら、赤ちゃんの未熟性を考慮して新生児ケアの充実した、当院と連携している高次医療施設へ救急紹介する場合もあります。

骨盤位妊娠(さかご)

大人とちがって、赤ちゃんは肩幅・腰回りより頭囲が大きい特徴があります。このため通常は頭が出てしまえば芋づる式に分娩が完了できますが、骨盤位のまま分娩が進行して頭が最後に引っ掛かる場合があります。赤ちゃんは数分でも低酸素の状態が続くと脳性マヒとなって後遺症が残ることがあるので、これを回避するために帝王切開を選択することが主流となっています。当院では妊娠34週までに骨盤位が治らない場合、帝王切開の準備と日程の相談をさせていただきますが、骨盤位が治った時点でキャンセルし自然分娩の方針へ変更します。

常位胎盤早期剥離

赤ちゃんが産まれる前に胎盤が子宮から剥がれてしまう状態。赤ちゃんは自力で呼吸を開始するまでは胎盤・へその緒を経由して母親が供給する酸素と栄養をもらうため、 胎児機能不全などの急激な状態の悪化をきたす恐れがあり緊急の分娩が必要です。出血や強い腹痛が出現した際は、胎児心拍数陣痛モニタ(CTG)や超音波検査を実施する ことで胎盤と子宮の間に出血のたまり(凝血塊)から診断されますが、はっきりわからない場合もあるので慎重な管理が必要です。

分娩予定日超過(過期妊娠)

分娩予定日(妊娠40週0日)を2週間以上越えてしまうと、赤ちゃんが大きく育ちすぎて肩甲難産のリスクが上昇し、胎盤の劣化がひどくなり赤ちゃんへ十分な酸素と栄養が届けられなくなり異常分娩となる確率が高くなります。このため、当院では予定日を1週間経過した患者さまに対し異常分娩を回避する目的で計画分娩をおすすめしています。もちろんできる限り自然に近い分娩ができるようサポートしつつ、必要最小限の医療的支援を行います。

遷延分娩(お産が長びく状態)

本格的な陣痛の開始から赤ちゃんが出てくるまでにかかる時間は、初産婦(初めてお産の妊婦様)で約30時間未満、経産婦(お産経験がある妊婦様)で約15時間未満とされています。それ以上長びくことを遷延分娩といい、疲労や感染などがひどくなると母子ともに危険となる場合も少なくありません。このような時はご本人様やご家族様と相談の上で以下のサポートを実施いたします。

疲労に対するサポート

必要な時まで可能な限り力を入れず、リラックスできるようサポートいたします。入院後も睡眠や食事をとったりシャワーを利用していただくことも可能です。アロマテラピーやバランスボール、洗える畳(よごれを気にせず安心してご使用できます)なども、フリースタイルで過ごすときにご利用いただけます。

感染に対するサポート

状況により、赤ちゃんに影響ないよう配慮された抗生物質を必要最小限で使用いたします。

医療的サポート

人工破膜・子宮頸管拡張器(メトロイリンテルやcookバルーンカテーテルなど)・陣痛促進薬(オキシトシン)点滴・吸引分娩・会陰切開術・帝王切開術など。

肩甲難産

過期妊娠・妊娠糖尿病などにより巨大児がお産となるとき、児頭が出たあと肩が引っ掛って出てこない状態をいいます。無理に引っ張ると赤ちゃんが骨折したり首の神経を傷害する可能性があります。当クリニック院長が中心となって産科救急講習(ALSO)に基づいた難産解除のシュミレーション研修を実施することにより、スタッフ一丸となって迅速に対処できる体制を整えています。

弛緩出血

赤ちゃんが産まれたあと、通常、子宮はすぐに収縮が始まって出血が止まります。しかし巨大児・羊水過多・子宮筋腫合併妊娠・遷延分娩・子宮内に胎盤や血液の残留などにより子宮収縮が不良となり大量出血をきたす場合があります。これを弛緩出血といい、全分娩の3-5%で発症すると言われています。予防として分娩直後からの子宮収縮を促すマッサージ・子宮圧迫・子宮収縮薬投与などで対処し、効果が期待できない場合は高次医療施設と連携しながら対応しますが、子宮摘出を実施する場合もあります。

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